「桶谷先生との思い出~ヒトとして育っていくための母乳育児~」

認定NO.8番 福田 良子
桶谷先生とは昭和53年2月に初めてお会いしました。そして昭和55年5月から3年間全国普及のセミナーにご一緒させていただきました。
どこでも定員オーバーの盛況振りでした。先生は、いつも緊張した面持ちで講演に臨んでいらっしゃいました。原稿作りは丹念に書いては消し、考えては直しで「いやがー、私、こんなの苦手、あんたがいいがに言って」などとかわいい笑顔でだだをこねて(ごめんなさい)いましたがいつもご自分のお伝えしたいことを、心を込めてお話されていました。
デモンストレーションの時間になると白衣を着てヒトが変わったようにリラックスしていらっしゃいました。手技を受けるためにベッドに横になったお母様と談笑されていますがいざ手技を始めるときには、姿勢を正してお母様に軽く頭を下げて奥をグッと動かします。その手に息を呑み、手技を見つめる受講者の真剣な眼差しが一斉に注がれます。
それをセミナーのたびに勉強できたのは、主に肉体労働担当の若い私たちですが貴重な機会を与えられた幸せ者だったと思います。
でもそんな私たちが唯一頭を痛め、神経を使ったのはホテルの枕でした。合わないと眠れず、寝不足は先生のお体には大敵でしたので。あそこの枕はとってもよかった「買えんやろか」なんて言われて困ったこともありました。それからデモンストレーションのときの椅子、ちょうど良い塩梅になるように色々重ねて座り心地を試していただきOKが出るとホッとしました。匠のようですごいなあと、未熟なわたしはつぶやいたものでした。
瞬く間に桶谷式は全国に知れわたり、高岡の相談室は見学や研修の方でいっぱいになり、先生の手技は人々の頭や肩の隙間から覗くような状態でした。一方、技術は簡単に伝えられないこともわかりました。相次ぐトラブルの苦情が先生のところに寄せられ先生も大変心を痛め、苦しまれました。その結果として住み込み研修制度が始まり様々な経緯を経て今日に至ったことは年史にも載せてありますが皆様すでにご存知の通りです
桶谷式を学んで早や33年、最近は、こどもは20年先をみて育てなくてはいけないと先生がよく言われていたことを思い出すようになりました。
それは昨今の痛ましい児童虐待のニュースを目にすることが多くなったからかもしれません。また、日々の仕事の中で感じるようになった気もします。昔は母乳のことを主に悩んで来られる方が多かったように思います。でも最近は母乳の相談はさることながら子育ての相談を受けることが多くなったように思います。
そもそも哺乳動物の哺乳という意味には単に栄養を与えるというだけではなくその種として生きていく術を伝えるという重要な役割があると中川志郎先生(元上野動物園園長)はおっしゃっています。桶谷先生の母子一体性の原理はこのことを言われているのではないかと思います。
ただ、母乳を飲ませればよいということではなく、質の良い母乳を与えることにこそヒトを人間として育てていく奥深い意味があるように思うこのごろです。

そのことをあらためて思い出す機会を原稿依頼のおかげでいただきました。ありがとうございました。

アールアンドワイ母乳育児相談室

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